ベッド&ブレックファストに泊まる
(南西部、アメリカ合衆国)

日本人の感覚では、ベッド&ブレックファスト(B & B)と聞くと、簡易な宿泊施設を想像しますが、アメリカでは、歴史的建築物の住宅を利用し、ふつうのホテル以上の料金を取ることも多いようです。個人経営が多いから、アメリカの住宅や、おもてなしを体験する、貴重な機会です。

アリゾナにも、そんなB & Bが随分ありますが、シーズンオフの夏以外は、最低2泊からがほとんどの中、1泊からお願いできたのが、トゥームストーンのMarie's Engaging B & Bでした。

トゥームストーンの西部開拓時代の街並から、歩いて5分ほど、静かな住宅街に立つ1906年造の B & Bです。アドベ造には見えない、白く端正な表構えに、緑の大きな屋根が掛かり、その屋根が、道に面した柱付きのポーチに続きます。当時、アメリカで流行ったバンガロー様式に近いようです。

室内も、外と同じように白く仕上げ、アドベ造を伺わせるところは、少しもありません。アドベ造にありがちなのは、民家なら、窓は四角く単純で、平坦な屋根を支えるたる木や野地板が、天井にあらわしになっている家なので、木造や煉瓦造が主流のバンガロー様式は、意外な感じです。地域の実情に合わせて、材料を読み替えたのでしょうか。

ひんやりと気持ちのいいのは、壁が厚く、熱が伝わりにくい、アドベの効果によるものです。機能的には、厳しいアリゾナの気候とコストを配慮したアドベの伝統を活かしながら、そのデザインは、昔のスタイルから距離を置いたあたりに、時代の変わり目を感じます。

どのB & Bもそうですが、客室は数室。ここも、玄関を入った細長い居間に、独立した水回りを持つ2室の客室が、取り付くだけです。その裏に、今は、オーナーの住む2階屋が続きます。

写真では、飾りすぎに見えますが、実際に身を置くと、居間も客室も、心地いい場所でした。趣味で完璧に固めた息苦しさではなく、家族の記憶、歴史につながるものが、気の置けない雰囲気をつくります。

空軍に所属していたご主人に付き添って、世界中を回っていた奥さんが、退役後、お母様が所有していたこの家に戻り、B & Bを始めたそうです。部屋を飾る調度品も、朝食に供された食器も、すべて、赴任地や休暇で訪れた国で手に入れた思い出の品です。

エジプト、リビア、マーシャル諸島、日本、イギリス、オランダ、さまざまな場所や文化がトゥームストーンで一堂に会し、小さな空間の中に、世界が凝縮されます。一つ一つの由来を聞いていると、早足で世界一周旅行をする楽しさがありました。

こういうオーナーとの距離の近さや、その暮らしぶりを映し出した宿の個性、そして、家族が長く暮らし、大事にして来た建物にのみ宿る時間の気配が、ホテルや、新しい宿泊施設にはない魅力です。大農場主の古いお屋敷を宿泊施設に改修したアルゼンチンのエスタンシアにも、同じように、オーナーとのコミュニケーションがありますが、あちらが、金持ちの友人の家に正式に招かれた雰囲気とすれば、こちらは、遠い親戚の家でしょうか。

アメリカのふつうの市民の、きちんとした暮らしと、居心地の質を垣間みる場所、それがB & Bでした。

付録
ツーソンで見掛けた、ちょっと泊まってみたいB & Bです。バンガロー様式やヴィクトリアン調の歴史的住宅を利用しています。
上段:El Presidio B & B
中上段:The Royal Elizabeth B & B Inn
中下段:The Big Blue House Inn
下段:Armory Park B & B

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交通
トゥームストーンのメインストリートから徒歩5分。

リンク
Marie's Engaging B & B

宿泊施設のリスト
El Presidio B & B
The Royal Elizabeth B & B Inn
The Big Blue House Inn
Armory Park B & B
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

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Marie's Engaging B & B (1906)

ツーソンで見掛けたベッド&ブレックファスト

        Photo by Daigo Ishii