南西部の建築探訪 教会巡礼 - 5:
サンフランシスコ・デ・アシッジ教会、サン・ジェロニモ教会、ロレット・チャペル
(タオス、サンタ・フェ、ニューメキシコ、アメリカ合衆国)

18世紀に入ると、教会も、より建築らしくなって行きます。この時期多くなるのは、入口のファサードの両側に、2つの塔が立つタイプと、入口のファサードをコの字型フレームで囲み、建築全体を大きな門に見立てたようなタイプです。後者は、おそらく、双塔が形骸化して、やがて軒と一体化したのではないでしょうか。

サン・ミゲル教会やラグーナの教会とは、アドベに土を塗る工法も同じですし、平面もあまり変わらないのに、カシっとした正面のつくりで、随分違って見えます。ファサードにしばしば現れるバルコニーも、「ニューメキシコの建築-石と土と光の教会」(ヨウ箱守・市原出著) によれば、ニューメキシコ特有のものです。コロニアル建築に近づくものの、こういう形の教会もまた、ニューメキシコのローカリティーそのものなのです。

今回、コの字フレームの教会を見る機会はありませんでしたが、双塔型に属すのが、タオス周辺の2つの教会です。

ジョージア・オキーフが描いたことでも名高いサンフランシスコ・デ・アシッジ教会は、ランチョ・デ・タオスの広場に立ちます。世界遺産タオス・プエブロの住民が、コマンチ族の襲撃を避けるために移動し、城塞に囲まれた村を、1716年に建設しました。1772年に始まった教会の完成は、1815年頃のこと。フランシスコ修道会のホセ・ベニート・ペレイロが監督しました。

優しいファサードもさることながら、やはり、この建築の魅力は、アドベのバットレスではないでしょうか。目に入るのは、ファサードと一体の正面のバットレスより、お尻の、もったりとした有機的な部分。角張った本体の壁を、オットセイの足のように受けています。顔は可憐な少女なのに、下半身はでっぷりとして大根足という感じのアンバランスが、地に足が付いたようで、ほほえましいというか、親しみやすいというか。羊の皮で磨き上げられた土壁には、芝が混じり、周りの大地と一体になって行きます。

十字型の室内は、大抵は、身廊の信者席と祭壇のある後陣の巾が同じなのに、この教会では、袖廊を越えると、後陣だけ、巾が半分近くに狭まり、その左右に白い壁が立ちます。席からは、のっぺりとした白壁が強く目に入り、空間の効果をそぎますし、さらに、その前を、唐突に斜めの方杖が横切ります。不思議なつくりです。

評価に迷う空間とは別に、見事なのが正面と袖廊に飾られた祭壇。祭壇の8枚の絵は、スペイン由来と考えられていますが、祭壇本体は19世紀初めに、ニューメキシコの製作者モレーノの手になるものです。

ここでもカトリックにちなむ2つの色に出会います。正面の祭壇は、バランスよく緑と赤が混ざり、脇の祭壇は、赤地に黒い線が鮮やかで、スペインのロマネスクを思い出しました。赤の祭壇のキリスト像にまとい付く緑の葉は、先住民文化の影響だそうです。

タオス・プエブロに立つサン・ジェローム教会は、最初の建物の完成が1619年。1680年、先住民が植民地政府に対して蜂起したプエブロの反乱の際に、先住民に壊されましたが、次に再建された教会もまた、1847年、立て籠もった先住民を攻撃するアメリカ軍に壊されてしまいました。その後、1850年に建設されたのが、現在のものです。同じ場所での再建ではありませんが、過酷な歴史の変遷の上で、やっと落ち着いたのが今の姿なのです。

ただし、そうやって、建て直すことに抵抗がなくなったためか、ファサードの双塔は、1920年に加えられたものだそうです。オリジナルは何かという時間の問題より、ニューメキシコとは何か、あるいは、ニューメキシコの教会とは何かという場の問題が、重要だったのかもしれません。確かに、ここに現れているのは、紛う方なきニューメキシコの教会スタイル。何百年も根を生やしているように見えます。

建て直されるたびに、スタイルの洗練が進んだ訳でもないのでしょうが、サンフランシスコ・デ・アシッジ教会と同じ、お尻のバットレスも、こちらは、ファサードの面ときれいに揃え、秩序だった感じがします。改修によるのかもしれませんが、土色の外壁の中で、建物の中央だけ白く仕上げ、その2色の色遣いは、アトリオの塀にも繰り返されます。複雑なボリュームを土色に磨き上げたタオスプエブロの建築の中では、白い色や、出入りの少ない形、そして石を張ったアトリオの床は、特別な場を強調します。

内部は想像したよりはふつうで、今までの3つの教会ほどの見所はありませんでした。

最後に、サンタフェのロレット・チャペルをご紹介。いわゆるニューメキシコの教会とは、縁もゆかりもないゴシック・リバイバル様式の教会。釘を使わずつくった奇跡のらせん階段や、パリのサント・シャペルを模したとは思えない建築よりも、ほんとうの見所は、ゴシック聖堂を模した祭壇。ゴシック・リバイバルの建築の中に、同種の祭壇が入れ子になっています。

海野弘が「アール・ヌーボーの世界」(中公文庫)で、アール・ヌーボーの源泉として、ゴシック・リバイバルに触れていますが、この教会の彫像は、アール・ヌーボー風美人像で、いい実例を見付けた気分になりました。

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Google Maps で場所を見る(サンフランシスコ・デ・アシッジ教会)
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交通
サン・フランシスコ・デ・アッシジ教会、サン・ジェロニモ教会:サンタフェから車で約1時間40分。アルバカーキから車で約2時間40分。
アルバカーキから、バスTwin Hearts Express & Transportationにより、約3時間。
ロレット・チャペル:サンタフェのダウンタウンから徒歩圏内。

リンク
Taos Pueblo
Loretto Chapel

宿泊施設のリスト
El Monte Sagrado, Autograph Collection
El Pueblo Lodge
Indian Hills Inn
Hotel la Fonda de Taos

Adobe and Pines Inn
Inn on La Loma Plaza
Orinda Bed and Breakfast
San Geronimo Lodge
Taos Country Inn Bed and Breakfast
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

参考文献
"Built of Earth and Song" (Marie Romero Cash, Red Crane Books, 1993)
"Historic New Mexico Churches" (Annie Lux, Gibbs Smith Publisher, 2007)
"City Guide to Sacred Spaces-Santa Fe, NM" (Sacred Space Inernational)
"ニューメキシコ-第四世代の多元文化" (加藤薫, 新評論, 1998)
"ニューメキシコの建築-石と土と光の教会" (ヨウ箱守・市原出, 丸善, 2000)
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サンフランシスコ・デ・アシッジ教会 (1772-1815)

サンジェロニモ教会 (1850)

ロレット・チャペル

      Photo by Daigo Ishii