トロスト&トロストの建築 - 2
(アルバカーキ、フェニックス、アリゾナ、アメリカ合衆国)

器用すぎるのがあだとなることがままありますが、トロスト&トロストも、また然り。

小品を卒業した彼らには、大型建築が次々と続きます。南西部だけで650棟以上設計したというから半端な数ではありません。規模が大きくなるに連れ、時流の正統路線に乗り、作品も、古典主義のリバイバルから、アールデコまで、間口を広げて行きます。

作品のいちばん多く残るエルパソには立ち寄らなかったから、あまり偉そうなことは言えませんが、アルバカーキのダウンタウンの目抜き通りの作品や、フェニックスの有力な不動産業者ラース一族がつくり、長い間、町を代表する建築だったラース・ビルとラース・タワーも、その時代の代表作です。

どれも器用にこなし、端正なんですが、時流を押さえすぎて、かえって、自分のカラーがぼやけています。初めの頃の住宅にあった地域性は弱まり、中央のスタンダードで勝負を挑んでいるようです。それはそれで、上手なんですけど。

アルバカーキもフェニックスも、目と鼻の先で、作品を見比べられるから、よく分かるのですが、そういう中で、じっくり見ていたのはオクシデンタル・ライフ・ビルとラース・タワー。やはり、トロスト&トロストの真骨頂は、南西部の風土を映し、まもなく時代遅れとなる装飾を強調した建築にあるようです。

オクシデンタル・ライフ・ビルは、ヴェネチアのドゥカーレ宮殿を模したヴェネチアン・ゴシック様式のリバイバルですが、流行した19世紀後半からかなり遅れての登場。尖頭アーチの繰り返す回廊は、アーチが立体的に重なったドゥカーレ宮殿よりは、水平なコロニアル建築のアーチの発展系のよう。そして、アーチや四つ葉の窓と言った強いエレメントに目が行くものの、よく見ると、アーチの間には、初期の住宅のように、本家にはない植物模様が刻まれています。材料のテラコッタのせいで、エッジがぼんやりとしているものの、そういう細部で、建築が華やいでいます。

ラース・タワーは、アールデコをベースとしながら、コロニアルや先住民の文化を装飾のモチーフとしています。南西部という場を、巧みに映した建築です。同じブロックにあり、5年前に完成したラース・ビルと、低層部でつながっていますが、至近距離でのデザインのギャップが、鮮やかなほどです。ラース・ビルも美しい建築ですが、ここはやはり、南西部でしか成立し得ないラース・タワーに軍配。

それにしても、彼らの引き出しの多さには驚くばかり。東海岸でも西海岸でもない後進地では、クライアントの数も質も違うし、生き抜くには、器用さが、必須だったのでしょう。辺境における地域主義の真髄とは、実は、コロニアルでも先住民文化でもなく、クライアントのどんな希望にも対応できる「器用さ」なのかもしれません。

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交通
ツーソンの建築:ツーソンのダウンタウンの徒歩圏内
アルバカーキの建築:アルバカーキのダウンタウンの徒歩圏内
フェニックスの建築:フェニックスのダウンタウンの徒歩圏内。

リンク
El Paso Community College Historical Markers Project
Metropolitan Tucson Convention & Visitors Bureau
Travel Photo Base World Image Collection

宿泊施設のリスト
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参考文献
El Paso Community College Historical Markers Project
City of Albuquerque
Wikipedia

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カーネギー図書館、ツーソン (1901)

旧ウィラード・ホテル、ツーソン (1904)

旧アルバカーキ高校、アルバカーキ (1914)

オクシデンタル・ライフ・ビル、アルバカーキ (1917)

ファースト・ナショナル銀行、アルバカーキ (1922)

サンシャイン・ビル、アルバカーキ (1924)

ラース・ビル、フェニクス (1924)

ラース・タワー、フェニックス (1929)

        Photo by Daigo Ishii