ウルネスの教会
(ソグネフィヨルド、ノルウェー)

ノルウェーにある世界最長のフィヨルド、ソグネフィヨルド。その最奥で、さらに分流したラスターフィヨルドに位置する村がウルネス。夏の観光シーズンを外れると、船が1日に2便しかない、辺鄙な場所です。

ウルネスの港から、斜面に点在する家々を抜けて、坂道を九十九折に上って行くと、集落の先に、フィヨルドを見下ろして立つ教会が現れます。28件現存する、ノルウェー独特の建築形式、スターブ教会の一つにして、代表例。世界遺産に指定されています。ちなみに、スターブとはノルウェー語で支柱を意味し、英語のstaffに相当します。

松を主体に、一部、広葉樹を使った木造建築で、建設は1150年頃と推定されます。さらに、入口の脇の装飾されたパネルなど、一部の材料は、古い教会から持ち込まれ、柱の跡や埋葬物の存在から、この教会が建てられる前に、すでに何代かの古い教会があったようです。

教会は、東西軸に合わせて配置され、アーケードの付いた西側の入口から入ると、身廊があり、その先に、間口を狭めた内陣があり、奥に、1600年に付け加えられたアプス(後陣)が取り付いています。身廊の外周は、四隅を固めた4本の柱の間に厚板を立て、その内側をもう一重、ロマネスク風のアーチでつながった14本の円柱が囲み、高い中心空間となります。低い屋根を掛けた外周と内周の間は、幅は狭く、後補と思われる信者席で分断されていますが、側廊として機能していたのでしょう。

身廊の中心は、屋根裏まで高く伸びて、架構を露出し、さらに、14本の円柱の丈が高く、間隔が狭いので、いっそう高さが強調されます。

ウルネスの教会には、他のスターブ教会で見られる龍頭の屋根飾りはありませんし、外壁北面の、8の字のような文様を連ね、その間に動物や植物を埋め込んだ、立体的で、土俗的な印象の透し彫りは、12世紀以前の古い教会のパネルを再利用したもので、他にも、先代の教会から材を引き継いでいます。スターブ教会の技法やスタイルが確立して、洗練される時代より前、試行錯誤の中、古い時代の建築から、新たな建築が現れたような空気を感じます。

あるいは、柱のつくる規則的な身廊空間のリズムを切断する、内陣との間の斜め材。14本の円柱は、正確には、17本のうち、宙で切断された3本を除いた数で、その宙ぶらりんの3本のうち1本が隅柱であるという、不安定な構造を補完するのが斜め材のようです。同様に、×型にクロスする筋交いも数カ所あります。

筋交いは初期からと言われ、宙ぶらりんの柱と斜め材は、初期からの説と、17世紀に、特別な信者席を、隅柱の位置に設けた際に発生したという説がありますが、どちらも特に装飾もされず、むき出しです。原初的な建築の持つ生々しさを感じました。

その一方で、身廊の柱頭に施された動物などの豊かな装飾は、ロマネスクの石造教会の柱頭の写しと言われ、室内の祭壇や装飾は、16世紀から17世紀に掛けてのもの。教会を支えた、何世紀にもわたる時間の蓄積を伝えます。

そして、木のやにで保護された外壁や屋根の板材は、日の当たる南面では、褪色し、木地の色が現れ、そこに18世紀に設けた窓が加わって、近代的な明るい印象ですが、 北に回ると、褪色せず、暗いまま、先述の土俗的文様の壁パネルが並び、遠い時代に引き戻されます。外観もまた時間の多面性の表現になっていました。

ウルネスの教会は、古い文化の上に、現地の風土、ローカルに翻訳されたキリスト教文化、時間の変遷が重なった建築でした。

時間を掛けてウルネスまで行くと、たくさんで集まるよりは、距離を取りながら独立性を保って暮らすことを望むノルウェー人の生活と、それと響き合いながら維持されて来た教会の関係を実感します。場所の遠さと建築の遠さの結びつきを目の当たりにできることが、ウルネスの教会の魅力です。

夏のシーズン以外は、拝観は予約制となります。

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交通
Sogndalへ:Oslo空港からソグネフィヨルドの中心都市Sogndalまで飛行機で50分、空港からSogndal中心街までバスで20分。
または、Oslo中央駅から Myrdalまで鉄道で4時間40分、 Myrdalから支線に乗り換えFlamまで50分、Flamからソグネフィヨルドの中心都市Sogndalまでバスで1時間50分。

SogndalからOrnesへ:Sogndal中心街からSolvornまでバスで30分。Solvornから船に乗り換え15分で、対岸のOrnes港へ。港より教会まで徒歩15分ほど。

リンク
ウルネスの教会

宿泊施設のリスト

参考文献
"Urnes Stave Church" (Ola Storsletten, Society for the preservation of Ancient Monuments, 1997)
"Stave Churches in Norway" (Gunnar Bugge, Dreyer, 1983)
"The Norwegian Stave Churches" (Leif Anker + Jiri Havran, ARFO, 2005)
"The Norwegian Stave Churches - A guide to the 29remaining stave churches" (Jiri Havran, ARFO)
"Norwegische Stabkirchen" (Eva Valebrokk + Thomas Thiis-Evensen, Boksenteret, 1993)

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ウルネスの教会(1150)

        Photo by Daigo Ishii