青森のお祭り:弘前ねぷた - 2
(弘前、青森、日本)

午後7時、ねぷたの開始です。弘前公園から、「ヤーヤードー」の掛け声とともに、順番に出発して行きます。

弘前のねぷたと言えば、扇の形ですが、勇壮な青森や五所川原に比べると、優しく、幻想的な雰囲気です。

ただし、扇ねぷたが登場するのは、明治時代に入ってからです。17世紀後半に遡り、文献上は、享保7年(1722)の「弘前藩庁日記」が初出となるねぷたは、初めは灯籠型から、やがて19世紀前半には人形型へ、そして、今の青森ねぶたにも似た組ねぷたとなり、大型化や華やかさを増しました。しかし、明治維新で経済が混乱すると、経費の掛かる大型のねぷたは下火になり、扇ねぷたに移行したそうです。

その主役の扇ねぶたに、子供ねぷたや、町名サインねぷたのような小さなねぷたがたくさん付いて来るのが、弘前の楽しさ。赤ん坊を載せた乳母車を連結したねぷたまでありました。赤ん坊から成人まで、囃子方や踊り手だけでなく、年に応じたねぷたまで用意し、町内の誰も彼もが参加できる仕組みになっています。

小さなねぷたは、子供たちが描いたものもあり、自由度も高く、作る上での住民参加もばっちりですが、メインの大きな扇ねぷたに限っては、伝統的な形を踏襲し、専門の絵師により、浮世絵を手本とする絵も専業化しています。他は崩しても、ここだけは、絶対外せないのです。

本屋だけでなく、コンビニのカウンターまで占拠している雑誌「弘前ねぷた速報ガイド2011」を開くと、51人の絵師が紹介されていました。参加者にお伺いすると、青森は、企業が数千万円掛けて製作するので、ねぶた師も一つの組ねぶたをつくれば、何とか1年暮らせるが、町内会が担い手の弘前では、一台の扇ねぶたの絵を書いても、50万円程度。10組描いて、どうにか食えるだろうとのことだから、そんなに楽ではありません。それでも、これだけの数の絵師がいるということ自体が、弘前と言う町の文化の厚みを示しています。

ちなみに、組のまとめ役の方に、絵師に、今年はこういうテーマでとか、こんな絵を書いて下さいとか、お願いするもののなのですか、とお尋ねしたところ、そんなこと恐ろしくて言えません、とのことでした。絵師を替えることもないそうです。

八戸同様、高さのあるねぷたの泣きどころは、電線と信号ですが、弘前もそこが見せ場です。

ねぷた本体も昇降しますが、扇の頂部が倒せるようになっており、頂部に載った男衆が、交差点に掛かると、手と棒を総動員して、切り抜けて行きます。

工業都市であり、工業系の大学のある八戸では、倒しまで含めた、信号くぐりの技が、すべて機械化されていましたが、人文系の大学が多く、青森の文化的中心だった弘前では、最後に、人の手が入ります。都市の性格が、山車のメカニスムにまで映し出されているようで、おもしろくありませんか。

そして,もう一つ、弘前らしさが現れているのが、ねぷたの回転。青森では、若い引き手の男衆が、ねぷたの足元で、力任せに回転させますが、弘前では、ねぷたの上部から長い紐を伸ばして、引き手とは別の3.4人の回し手が、走りながら回転させます。青森よりは、力学的に、より少ない力で可能にする方法だから、女性の回し手もいました。

この日いちばん見事だった回し手は、藤代新町のねぷた。円を描いて、ねぷたの回りを走っているうちに、遠心力が付き、一瞬、宙を舞っていました。

弘前ねぷた4日目の朝、観光案内所に自転車を借りに行くと、届いたばかりのファックスを見て、職員が何やら浮かない顔。

聞けば、昨晩の集客が思ったより落ち込んでいるとのこと。8月1日の初日に37万人だった人出が、青森ねぶたの始まった2日には25万人となり、3日には、20万人だったのが、そこに、さらに五所川原の立ちねぶたが加わった4日には、18万人にまで減ってしまったそうです。電車で1時間も離れていない3都市が、一斉に行うのだから、予想できることとは言え、ほんとうに熾烈です。

でも、弘前にも秘策はあります。そのヒントは藤代新町のねぷた。あれを発展させて、遠心力で舞い上がったとき、きりもみしたり、体操のトカチェフやコズロフのような大技を挟むのは、どうでしょうか。まさにねぷたのシルク・ド・ソレイユ状態です。これが実現したら、青森や五所川原から客を奪い返すこと絶対だと思いますが。

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交通
弘前駅から弘前公園の間。

弘前公園:弘前駅から西目屋、相馬、岩木方面行きバスで20分、市役所前公園入口で下車、または、土手町循環バスで20分(日中は頻発)、市役所前下車、すぐ。

リンク
弘前ねぷた参加団体協議会

弘前市役所
弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

青森県観光情報サイト
あおもりの文化財
文化遺産オンライン

宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合

参考文献
"弘前ねぷた速報ガイド2011" (路上社, 2011)
"図説青森県の歴史" (成田稔・長谷川成一, 河出書房新社, 1991)
弘前ねぷた参加団体協議会

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弘前ねぷた 巡行

弘前ねぷた 撤収

        Photo by Daigo Ishii