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60代前半の夫婦のための、小さなローコスト住宅です。まわりの家の立ち方により、小さい敷地ながら、東、南、西に視線が抜け、その恵まれた立地を活かし、配置、窓の位置を決めています。

設計で考えたのは、これから20年、30年と「同じ場所に住み続けること」です。

設計者自身が、高齢の両親の面倒を見る中、高齢化を見据えた住宅とは、若い世代の住宅とも、いわゆる高齢者住宅とも、つくり方が違うことを実感しています。

両親の観察からの「気づき」を、設計する際の手掛かりとしました。その「気づき」から「解法」を導き、その「解法」を重ね合わせることで、高齢化に配慮した新しい住宅の形をつくろうとしました。

「時間の変化に鋭敏になる」「地域の見守り」「想い出」「運動」「省メンテナンス」「エネルギーや災害への耐力(耐震等級3級、省エネ等級4級を確保)」、そういう「気づき」への解法は、それぞれの素材、色、形、間隔を決めます。それらを重ね合わせることで生まれる「ばらばらな印象」が、緩やかな空気をつくり、長く住み続ける中、暮らす人を楽にして行きます。

住まい手が少し動くだけで、重なりの見え方が動き、また、東、南、西の窓から、朝昼晩、春夏秋冬を通して差し込む光が、重なりのずれを通して、時刻とともに、複雑に影を変化させます。それらの重なりの変化で、空間の中に気配が生まれ、住み手を元気づけます。

 

所在地 東京都世田谷区

延床面積 67.00m2(20.3坪)

構造 木造2階建て

施工 小池工務店

 

物干し場から2階を見る。朝の光と影が、室内に豊かな表情をつくり出す。ブリッジを渡った正面奥に机スペースと就寝スペース。右手は、両側に飾り棚を設けたギャラリー。さまざまな想い出の物を飾る場所。室内の仕上げは、シナ合板を主として、さまざまな素材、色を組み合わせている。

2階の就寝スペースから吹抜を見る。正面に2階のギャラリーと物干し場、左手に平行棒スペース、右手に机スペース、吹抜下に1階の居間と厨房が見える。吹抜を介して、1階も2階も一つにつながり、つねに夫婦がお互いの気配を感じ取れる。左手の平行棒スペースは、両側に手でつかまるための低い手摺を設置。将来、高齢になり、外出が限られる際、運動スペースとなる。

東側から外観を見る。小さい敷地だが、私道や駐車スペースで視線が抜けるため、それに合わせて、窓を設けた。1階の窓は、私道に配慮して、建て替え前の家の窓の長さと同じにしている。窓は、省エネ等級4級の断熱性能の高いアルミ樹脂複合サッシュとなっている。床、壁、天井の断熱材も省エネ等級4級の製品を設置。

(左)南側から外観を見る。2階の窓からは、物干し場の洗濯物を干す風景と、飾り棚に飾る品々が見える。将来の高齢化を見据える中、生活の様子の一部が街路から見えることで、地域の人に見守ってもらうことを意図している。(右)西側から外観を見る。視線の抜ける場所に窓を設けている。

1階の居間の奥から、厨房と玄関、2階のギャラリーとブリッジを見る。東、南、西からの光と複雑な影が室内に落ち、時間の移ろいに鋭敏になる。さまざまな素材を組み合わせて、ばらばらな印象ながら、居心地のいい空間をつくろうとした。ギャラリーに飾った想い出の物が、家族を見守る。

玄関から1階を見る。正面が居間、右手が厨房、左手が洗面所のドアとなる。吹抜を通して、2階の様子も伝わる。厨房は、右手にガラスの天井を持ち、2階の窓からの光が落ちるため、日中は、照明なしに作業ができる。

1階の居間から玄関と階段を見る。その上に、2階のブリッジと、左手にギャラリーの一部が見える。玄関から1階までは、将来、車椅子使用になった際の対応のため、コンクリートのスロープになっている。

1階の奥から居間を見る。午後の光が差し込んで来る。正面は厨房で、その上に、ギャラリーの飾り棚を見る。窓の外には、テラスを設けている。左手の壁の長さは、将来、1階のみで暮らすことになった場合、介護ベッドを置くため、介護ベッドの標準的サイズに合わせた寸法。

1階の厨房から居間を見る。左手は、玄関から上がるスロープ。その上に2階のブリッジ。右手上は、就寝スペースの手摺で、就寝風景が階下から見えないように、目隠し板を貼っている。

2階の就寝スペースを見る。就寝スペースの手摺は、布団を干す機能を兼ね、階下から就寝風景が見えないように、目隠し板を取り付けている。吹抜の左手は、平行棒スペース。将来、高齢になった際の運動スペースの機能を持つ。吹抜の向こうに、ギャラリーと物干し場を見る。

2階の吹抜を、ギャラリー側から見る。左手にブリッジと机スペース、右手に平行棒スペース、正面に就寝スペースを見る。手摺を縦格子にすることで、時刻とともに、落ちる影が動くのが視覚化され、時間の移ろいに鋭敏になる。

2階の物干し場を見る。屋外の物干し場は、将来の定期的なメンテナンスが必要なことと、将来、高齢になると段差などで使いにくいことから、室内化した。窓際に洗濯物を干すことで、道路から様子が見え、地域に見守ってもらう仕掛けとなる。

2階から吹抜を見下ろす。吹抜のまわりに、居間、厨房、就寝スペース、ギャラリー、平行棒スペース、物干し場など、さまざまな機能が配置され、その活動の風景が、吹抜を介して、室内に活気をつくり出す。

2階は、大きなカーテンで仕切れるようになっている。光は通すが、人の気配は通さない特殊なカーテンのため、締め切ると、昼間は、プライバシーと明るさを両立でき、夜は生活の様子が外に伝わることを抑える。

将来の高齢化を見据えて住宅を設計するに際し、設計者自身の両親の介護からのさまざまな「気づき」を手掛かりとして、その解法を、住宅の中にちりばめた。その「気づき」と「解法」示す図解。