「インド洋の軍艦島」マーレ - 2
(マーレ、モルディブ)

マーレの街は、建築ラッシュのようで、古い低層の街並が、中層の街並に変わりつつあります。土地は有限で、限度一杯利用されているにもかかわらず、人口が増加して行く状況では、上に伸びるしか方法はありません。今は10階を超える程度ですが、この状況が続けば、超高層の出現ももうすぐかもしれません。

島々からの船が寄港し、魚市場や青果市場の連なる北岸の港周辺から、島の中央を東西に横断するメインストリートMajeedi Maguあたりまでは、すでにビル化の進んだ一郭。このあたりが、インド洋の軍艦島(勝手に付けた愛称)たる由縁です。商品を豊かに揃えた商店とマンションが混在し、人や、バイク、車の往来も活発です。

Majeedi Maguを超え南地区に入ると、次第に、開発の波が一段階遅れている、のんびりとした雰囲気の住宅街になり、少しずつ低層の一戸建てが増えて行きます。こういう密度の高い都市の姿自体が、マーレの見所です。

マーレの街を散策していて、建物の密度や、街の空気に、既視感を覚えました。そうそう、浅草から上野あたりの、台東区の建て込んだ街並です。建物の色彩感覚は違い、通り過ぎる女性がブルカに身を包んでいたとしても、スケールの小さな敷地、まちまちな建物の高さ、街路に面した戸口、整然としていないが清潔な街並、混雑していても秩序だった雰囲気、そして、人の気配が非常に近いこと。ふっと、遠い世界にいることを忘れます。

美しい街とは言えませんが、近しく感じたのは、日本人の密度感覚、密度の中での距離の保ち方に似ているせいなのかもしれません。

残念なのは、伝統的なサンゴ石でつくられた住居が、減りつつあること。気泡を含む石は、遮熱性能が高く、石の間の隙間が風を通す一方、雨や湿気でも腐りにくく、熱帯多雨の気候にふさわしく見えます。住民にとっては、古くさく、ビル化の流れには不向きな構造なのでしょうか。そういう伝統的なものに対する意識は、まだ高まっていない感じがしました。

マーレでは、街角のいたるところに大小さまざまなモスクが置かれ、公園などの限られたこの島での公共スペースを兼ねているようです。

滞在していた雨の多いこの季節、晴れれば日差しはきつく、雨が降ればどしゃぶり、という中、歩き回って感じたのは、モスクは、宗教的な場であると同時に、日差しに疲れ、雨に降られたとき、一休みできる公共の広場だということです。大きな樹木が蔭をつくっています。気積が大きく風通しのよい、見るからに涼しそうな堂内があります。水場も付いています。

異教徒にすれば、マーレの街は、暑さにげっそりしても座る場所も少なく、雨に襲われても店の狭い軒先しかない、島の小ささの割に、意外と歩き疲れる場所で、そんなとき、モスクがうらめしく見えるのでした。

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交通
マーレ空港のある島から、マーレ本島までフェリーで15分ほど。

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マーレの街

 Photo by Daigo Ishii