ジェフリー・バワの建築:
ベントタビーチホテル、ベントタ駅
(ベントタ、スリランカ)

時が経つほど価値の増す歴史的建造物のホテルとは違い、近代的なつくりのホテルにとって、築年数の経過は、かなり微妙な、というよりも、厳しい現実を引き寄せるのが一般的です。

ベントタビーチホテルが出来たのは1969年だから齢40年。がたが来てもおかしくない年月ですし、新しい豪華リゾートの前では、大衆化は否めないとしても、ベントタを代表するホテルとしての格は、いまだ健在です。訪れたのは雨季でしたが、全館満室でした。

「どこか違う」、それが長い間生き続け、他のホテルと差別化できた理由ではないでしょうか。メインストリームと距離を置いたデザインが、現れては消える流行に呑み込まれることからホテルを守りました。近年、新しいオーナーが、大規模なリノベーションで改変したようですが、それでもなお、失われていない「どこか違う」感じ、それが、デザインしたバワの功績に違いありません。

大掛かりな仕掛けや、革新的なプランニングがある訳ではありません。細部の積み重ねが、その「どこか違う」感じの源です。

例えば、オランダのつくった石積みの砦をメイン棟の基壇に利用し、その形に合わせて、建物のプランニングを決めたこと、これは保存開発型デザインの走り。

意外なほど小さな車寄せから、細い階段を上ると、そこが、基壇の上につくられたレセプションで、天井一面に、色鮮やかなフォークロア風テキスタイルが張られています。一通りスリランカを回ってから、この天井に遭遇すると、ダンブッラ寺院ドーワ寺院シギリヤで見た、石窟の天井画を思い出します。フォークロアや石窟へのオマージュは、地域主義への接近として、建設当時には、後退的と見られたかもしれません。

同じように、上階が飛び出した外観が大胆な客室棟は、ラトゥナプラにある古い寺院、マハ・サマン寺院とのつながりがあるそうですし、大きな木を植えた島が浮かぶ池と、それを囲む回廊状の中庭は、修道院やコロニアル建築を思い出します。これは現代建築への歴史的引用。

客室は、最近の平均からは少し小さめですが、居心地よいつくりです。テラス側の壁にジグザグを付けて、室内と屋外の両方につくった可愛らしいベンチは、バワの多くの建築で繰り返し現れる、「小さな居場所づくり」の好例。

小さな部分を変えただけなのに、それが重なると、全体が変わって来る、そういう「弱い強靱さ」みたいものが、この建築の力となっています。

1960年代にスリランカ政府がナショナルリゾートとして開発を始めたベントタは、スリランカ流のリゾート開発の変遷を見ることのできる場所です。初期のベントタビーチホテルは、インド洋に突き出た砂嘴の付け根、西に外海、北にラグーンの内海が接するというロケーション、申し分ない敷地の広さに恵まれています。

歩いてすぐのベントタ駅も、バワが1967年につくった愛らしい建築です。エッジの丸い窓は、1960年代のイギリスの建築家、アーキグラムやスターリングの作品を思い出しました。時代の空気が、この地にも伝わって来たのでしょうか。

今は停車する列車の数も減り、ベントタ開発の始まった時代、観光客のためにつくられただろう駅も役目を終え、穏やかな余生を過ごしているようです。

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交通
コロンボからベントタ駅、または、その手前の停車本数の多いアルトゥガマ駅まで鉄道で約2時間。ベントタ駅からホテルまで歩いて5分。または、コロンボからバスで2時間。

リンク
ベントタビーチホテル

参考文献
Geoffrey Bawa the Complete Works (David Robson, Thames & Hudson, 2002)

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ベントタビーチホテル (1969)

ベントタ駅 (1967)

        Photo by Daigo Ishii