弘前と前川國男 - 4: 
弘前市民会館 - 1
(弘前、青森、日本)

弘前市民会館を正面から見たとき、最初に、うまいなと思ったのが、極端に水平に伸びるポーチでした。

設計の際、弘前公園の中に位置するため、公園の景観に配慮したことは、そこかしこに窺えます。例えば、ポーチを挟んで、左に会議室棟、右にホール棟に分けてボリュームを小さくしたことや、高さを抑え気味につくったこと。ホールのフライングタワーは、実際には飛び出しているのでしょうが、それを巧みに隠す造形と建物回りの造園の妙も効果を上げ、公園の木々の中に埋もれているようにしか見えません。

突出した高さがあれば、訪れる者の目を引き、建築の見栄えも簡単に獲得できますが、ここでは、公園の景観を損なう手は使わず、代わりに発見したのが、逆転の発想とも言うべき、この長く低いポーチだったのではないでしょうか。

渡り廊下のようなポーチは、ただでさえ、長さ39mもあり水平性が際立ちますが、天井の高さも、236cmと、ぎりぎり低く抑えています。その結果、高さのない2つの棟とのめりはりも生まれるし、ポーチの高さと長さのバランスの比も大きくなるため、いっそう水平性が強調されます。低くすることで、建築のランドマーク性を高めるという、意外な解決方法に、期待が高まります。

ポーチの低さは、市民を気軽に呼び込む近づきやすさがあり、大掛かりなエントランスに、立ち上がるようなファサードの巨大な公共施設に入る際の、気の重くなる空気とは無縁です。

ポーチを外から嘆賞するのもそろそろ切り上げ、足を踏み入れてみます。低い軒をくぐると、また、はっとする仕掛けが現れます。ポーチの天井が、群青で仕上げられているのです。

軒天に色を施すのは、処女作の木村産業研究所でも、市庁舎でもおなじみですが、いちばん効果を上げているのは、この市民会館ではないでしょうか。外からは、コンクリート打放ししか目に入りませんし、ポーチの軒が低くて、中に入るまで、天井の様子は伺い知れず、まさか、こんな色が使われているなど想像できませんでした。けっして、高価な仕上でもありませんが、粗々しく、質感の強いコンクリート打放しとの対比で、すべすべとした色の感触が、華やかに感じられます。

ポーチから、次は、会議室棟へ。ここも、コンクリート打放しの基調と、点々と差された色により、若々しく、活き活きとした空間です。

窓面に差し挟まれた、コの字状の打放しの壁の内側は、赤や緑に塗られ、1階のロビーをL型に囲むソファーや、2階の吹抜回りに配された椅子も、何色もの色の組み合わせのソファカバーで楽しげです。そして、小さな照明が星をちりばめたような天井は、藍色に塗られています。

職員のお話では、基本的には、前川国男のオリジナルの色を踏襲しており、驚くような話ですが、ソファのカバーは、完成した1958年に入れたものが、今もなお、大事に使われているそうです。彩度の低い、少し褪せた色使いは、オリジナルからのものなのか、時間による褪色なのか、曖昧なところもありますが、半世紀という時間で風合いの増したコンクリートともマッチし、浮いた感じのない、落ち着いた空気をつくり出していました。

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交通
弘前駅から駒越、弥生、枯木平方面行きバスで20分、市役所前公園入口で下車。または、土手町循環バスで20分、市役所前下車。徒歩5分。日中は頻発。

リンク
弘前市役所

弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合

参考文献
"前川國男と弘前" (A haus2005年1月号、A haus編集部、2005)
"建築家前川國男の仕事" (美術出版社、2006)
木村産業研究所展示

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弘前市民会館(1964)

        Photo by Daigo Ishii