カタラガマへ - 2:
聖地カタラガマ
(カタラガマ、スリランカ)

良いことでも邪なことでも、すべての願いを叶えてくれる神、それがムルガン神またはスカンダ神こと、カタラガマ神です。その神を祀るスリランカ有数の聖地が、その名にちなんだ、ここカタラガマです。

島の南端に近いこの地は、スリランカ世界にとって、最果ての地。カタラガマを目指して、ヒルカントリーから下りて来ると、空気は乾き、気温は上がり、木々がまばらになって来ます。五感から伝わる暑さに、果てを実感します。

町は、街道を挟んで、南が宿泊所や土産物屋の連なるにぎやかな門前、北側が神域。神域の林を進むと、まず現れるのが、結界のようなマニック川。手前には、屋台が立ち、浅い河瀬は、沐浴の信者でいっぱいです。三途の川気分で、橋を渡ると、献花の屋台以外、俗なものは消え、雰囲気が高まります。広いブールバールの突き当たりに門が見え、そこから先が、ほんとうの聖域。履き物も御法度です。

カタラガマは、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教の共通の聖地です。元々は、先住民族ベッダの聖地でしたが、仏教側の伝説によれば、紀元前6世紀、ブッダが訪問し、聖別された場所となり、ヒンドゥー教の神話によれば、インドの北にあるカイラス山と対峙する南の聖地がこのカタラガマで、その祭神がムルガンになります。

長い間、仏教徒地域にあり、仏教徒に統括されていたものの、どちらと言えば、ヒンドゥー教色の強い聖地であったようです。さらに、時期はかなり下がりますが、イスラム教徒の聖地ともなりました。カタラガマ神も、いつか宗教の垣根を超え、スリランカ国民全体から強い信仰を受けるようになりました。

独立を獲得した20世紀後半、政府の手で、宗教を超えた聖地として整備が始まりました。一方で、シンハラ人優先政策が、この地にも影を落としたようです。ヒンドゥー教の神具のタミール語名を、シンハラ語の近い音の違う言葉に置き換えたり、ヒンドゥー教の祭祀のルートに仏教施設を含むようにしたり、と、少しずつ、仏教色が強まる様を、カタラガマをフィールドにした宗教学の名著「メドゥーサの髪」の中で、作者オベーセカラが触れています。

門を入ると、先ず、大きな広場。中央に、菩提樹を背にしてヒンドゥー教の三連の小さな神殿が立っています。いちばん右手が、カタラガマ神を祀った由緒ある神殿ですが、あっけないほどのつつましさです。

広場の向こうには、今度は、それまでとはまったくスケール感の異なる大きな参道が、唐突に現れます。はるか先には、紀元前1世紀につくられたという仏教のストゥーパ、キリ・ヴィハーラがそびえています。キリ・ヴィハーラは、20世紀半ばまで荒廃していた、ということですから、この過度に壮大な参道にしても、その後のシンハラ人優先政策から、ヒンドゥー教に対する仏教の優勢を誇示するために整備されたのではないか、と思えて来ます。

「メドゥーサの髪」は、作者が、カタラガマで、ねじれ髪の信者(ほとんどがヒンドゥー教徒)に出会ったことをきっかけとして、信者への聞き書きから、精神的な抑圧が宗教的な振る舞いに結びついて行く様を描きました。西欧なら精神疾患としてひとくくりにされかねない症状も、スリランカには、神との媒介として社会が受け入れる余地があり、文化の違いによる、精神状態の解釈の違いを浮かび上がらせました。

そこで描かれたねじれ髪の信者、そして、カタラガマと言えばよく紹介される、顔や身体を矢や棒が貫いた苦行の信者、火渡りの業をする信者など、宗教色の濃いカタラガマの姿を、今回、ほとんど見掛けませんでした。大祭に押し掛けた、あまりにもたくさんのふつうの仏教徒が、聖地を大衆化し、深く信仰にのめり込んだヒンドゥー教徒を、影に隠してしまったのでしょうか。

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Kataragama.org the Kataragama-Skanda website

交通
コロンボからバス、車で9、10時間程度。

リンク
Kataragama

宿泊施設のリスト
Kataragama Rest House
Mandara Rosen
旅行の際に調べた情報であり、評価については、各人でご確認下さい。

参考文献
メドゥーサの髪(G・オベーセカラ、言叢社、1988)

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2008.01 日本語版の文章、写真+英語版の写真

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カタラガマ神殿

キリ・ヴィハーラ

        Photo by Daigo Ishii