シンガポールの保存
(シンガポール)

一時期、シンガポールでは、古いチャイナタウンを壊して、再開発で新しいビルに建て替える動きが凄まじく、そういう流れを、遠く離れた地で、読んだり聞いたりしていると、昔の面影がほとんど残っていないのだろうと、勝手に思い込んでいました。

リー・クアンユー本人も、「1960年代、我々はやみくもに都市再生計画を進めた」と書いているほどですから、マスメディアの報道も、あながち筋違いではなかったのでしょう。

そのリー自身が、開発速度に「ある種の不安を覚え」、史跡保存局を設立したのが、1971年。

それから、歴史的、文化的に価値の高い建築の保存に力を入れた結果、2004年には、保存対象の建築は、6400棟にまで増えました。

ダウンタウンを歩くと、植民地時代からの由緒あるコロニアル建築が点々とランドマークとなり、ショップハウスというチャイナタウン特有の街並も、かなり残っています。東京よりは、保存への姿勢が、はるかに進んでいることに、感心し、先入観を反省すること頻りです。

40年前に、すでに舵が切り替わったのに、古い物に容赦ないというシンガポール像が、いまだに消えないのは、リーがつねに言い続けている、マスメディアの「偏向」報道、即ち、ネガティブなものばかり報道したがる姿勢と関係しているのかもしれません。

ただし、両手を上げて、お見それしやした、と行かないのが、シンガポール流、というか、リー・クアンユー流です。

一言で言えば、ブラグマティックな保存なのです。

一つは、ファサード主義。表のファサードを残せば、内部の改変には鷹揚です。かつての郵便局が、今は、フラートンホテルとなりましたが、重厚なネオバロックの外観を入ると、空中歩廊の渡る大吹抜のロビーが現れます。文化財的なファサードは書き割りとして残るだけで、意外と大味な今風インテリアに、個人的には、あらら、という感じ。

そして、もう一つは、商業主義。例えば、昔の教会がパーティースペースとなり、修道院が商業施設というのは、どうなんでしょうか?多くの教会が教会のまま保存されている中での一部だとしても、宗教への冒涜という声が上がらないものなのか。まあ、教会でさえ例外としない、その割り切り方が、リー・クアンユー流と言える訳でもありますが・・・。

今は、アジア有数の豪華ホテルの名をほしいままにしているラッフルズホテル。1980年代後半、荒れ果てていたホテルの改修に際し、所有者の金融機関の対応が煮え切らず、リー首相が、きちんと再生しなければ、政府が強制収用すると、「個人的に干渉」したところ、立ちどころに、修復プロジェクトが始まりました。結果として、往時よりも魅力の増したホテルは、シンガポールのシンボルともなり、万々歳というところですが、これもまた、してやったり、リー・クアンユー流。

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交通
シンガポールのダウンタウンのいろいろな場所、徒歩、または、地下鉄。

宿泊施設のリスト

参考文献
リー・クアンユー回顧録(日本経済新聞社、2000)
Architecture Heritage Singapore (APD SIngapore Pte LTD, 2004)

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シンガポールの保存建築物

         Photo by Daigo Ishii