弘前と前川國男 - 5
弘前市立博物館、緑の相談所
(弘前、青森、日本)

弘前のシンボル、弘前公園は、中心街から外れていることもあり、桜の季節を除けば、人通りもあまりありません。たくさんの観光客が訪れるねぷたの期間中でさえ、弘前城目当ての観光客と散歩の市民がちらほら。弘前市立博物館のできた1970年代半ばの人出も、今と同じだったのでしょうか。

この博物館に来るたび考えるのは、公共施設の市民への開き方です。

ボリュームをずらした配置は、公園の景観に配慮したという単純なものではなく、敷地内の木の伐採を禁じた文化庁の指導を、建築の戦略に高めたものです。2階建てに抑え、水平に広がって行くため、高さも低く感じます。

厳しい気候での耐久性に配慮した結果が、打ち込みタイルとなりました。中国産のマンガンを配合して、時間とともに微妙な風合いが出るようにしたという赤茶色は、公園の桜と相性のいい色として、選ばれたそうです。一年のうち、桜の咲くのは一週間だけですが、濃い緑とも違和感はありません。ただし、前川國夫の建築で、繰り返し同系色のタイルが現れることからすれば、桜の話はレトリックにも思えます。

そして、館内の休憩スペースの大きな窓。風景を切り取り、美しい緑が迫ります。

環境に配慮した美術館として世評も高く、その上、ディテールの勝利か、20年間補修費が一切掛かっていないと聞くと、はばかられますが、しかし、個人的には、どうもしっくり来ません。市民から遠い感じがするのです。

公園の奥深くに引っ込み、ただでさえ、近寄りにくいのに、園路から博物館入口まで、立派な前庭が、さらに立ちはだかります。ランドスケープデザインは質が高く、しっかりとしたアプローチは、施設に格を与えますが、それがよかったのか。

タイルと、かしっとしたファサードも、閉じた印象。中の様子が窺い知れず、近づかない限り、開いているかどうかも分かりません。管理部門の窓を入口側に配したのは、気配を外に漏らすためだそうですが、明るい昼間には、その効果は伝わりませんでした。

一つ一つが、博物館を仰々しくし、市民から遠ざけます。

中に入っても、印象は覆りません。隣の市民会館は、個としての一人一人の市民を思い浮かべながら、小さな場所をたくさんつくっていますが、こちらは、集団としての市民を想定して、大きな箱に納めた感じです。人であふれる時には映えても、屋外以上に人のいない現況では、単調さをまとい、居心地よいスケールではありませんでした。

たくさんの入館者を想定する東京のような立地とは違い、小さな地方都市の博物館には、違った方法論があったように感じます。

もう一つ、同じ弘前公園内にあるのが、緑の相談所です。

こちらは園路沿いで、公園入口もすぐで、近づきやすさは問題ありません。建物のボリュームも、樹木の中に埋もれ、公園の景観になじんでいます。勾配屋根が効果を上げているのでしょう。L型の間取りは、敷地内の桜に配慮したためです。

そういう心遣いから、細やかな空間を期待して中に入ったのですが、ここも居心地がよくありません。

外から見るよりは、高さのある空間が広がり、それが、大きな施設のディテールでつくられているためでしょうか。雪に配慮した深く低い庇が、室内を暗々とさせ、公園の緑を遠ざけているからでしょうか。一休みのつもりでしたが、身の丈を超えた場所に放り出されたようで落ち着きません。建築に見下ろされている感じがして、ほどなく退散しました。

公園の中に、休憩所を兼ね、市民の花と緑の相談に乗る場所をつくった、弘前市の発想はすばらしく、園芸雑誌から重森三玲の超豪華本「日本の庭園」まで充実した図書コーナーにも弘前の文化レベルを感じます。県外からも相談が来るというから、ソフトも充実していることでしょう。だから、なおさら、これだけ緑に近いのに、緑から隔てられ、人工的な印象の強い建築は淋しく、家のベランダの小さな鉢植えが、遠く感じられました。

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Google Maps で場所を見る(弘前市立博物館)Google Maps で場所を見る(弘前市緑の相談所)

交通
弘前市立博物館:弘前駅から西目屋、相馬、岩木方面行きバスで20分、市役所前公園入口で下車、または、土手町循環バスで20分、市役所前下車(日中は頻発)。徒歩5分。
弘前市緑の相談所:弘前駅から土手町循環バスで20分、文化センター前下車(日中は頻発)。徒歩5分。

リンク
弘前市立博物館
弘前市緑の相談所

弘前市役所

弘前観光コンベンション協会
弘前総合情報RIng-O Web

宿泊施設のリスト
弘前市旅館ホテル組合

参考文献
"前川國男と弘前" (A haus2005年1月号、A haus編集部、2005)
"建築家前川國男の仕事" (美術出版社、2006)
木村産業研究所展示

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弘前市立博物館(1976)

緑の相談所(1980)

        Photo by Daigo Ishii